こんにちは。
鈴木(晴)です。
長年慣習だったものが形骸化し、形だけが残るというのはよくある話です。
本切羽もその一つです。
今回は本切羽について深堀していきます。

(1846年12月21日 ロバート・リストンの外科手術の様子)
本切羽とは
本切羽とは英語で「Surgeon’s cuffs(サージェンス・カフス)」と言い、釦ホールが実際に切ってあり開け閉めできる仕様のことを言います。
一般的に袖丈は人体の中でも個人差の多い部位とされており、既製品で本切羽にすると袖丈の調整が効かなくなることから高級オーダースーツ(昔は安価なオーダースーツが存在しなかった為)の証とされてきました。
現代ではグローバルスタイルを始め様々な低価格のオーダースーツが出回り、本切羽の価値が下がってきたこともあって重要視する人は減ってきた印象です。
確かにこれ見よがしに釦を外してもわざとらしく。、かと言って何もしなければ持ち腐れになるので本切羽にする意味がないという感覚は理解できます。
だからこそ私はあえて本切羽にして、釦を開けないという行動をとっています。
本切羽の歴史
19世紀、社会的地位のある男性は立派なジャケットを着ない人はいませんでした。
これは外科医にも当てはまり、彼らは負傷者の手当てをするためにスーツとブーツを身につけて野外に出ました。
当時はシャツは下着という考えであった為、人前でジャケットを脱ぐというのは恥であるという感覚を持っていました。
現代の間隔で言えば、公衆の面前で衣服を脱ぎ棄て全裸になるようなものです。
そのため、ジャケットを着たままである彼らの袖や袖口は汚れてしまいます。
袖を内側に捲って処置を施していましたが、着心地が悪くすぐに落ちてしまうため、実用的ではありませんでした。
19世紀後半、サヴィル・ロウではこうした医師や外科医たちがジャケットの袖のボタンに動きやすさを考慮した機能的なボタンを要求し始めました。
そのため、袖口に機能的なボタンが付いたジャケットを今日では「Surgeon’s cuffs(外科医の袖口)」と呼ばれることが多いのです。
現代のサヴィル・ロウにおいて
本切羽の歴史と、なぜ高級仕様だと言われるのかは分かりました。
しかし、サヴィル・ロウではこの本切羽が取り入れられているのはごくわずかです。
その理由は、スーツの持つ重要な役割があったからです。
それは父から子へ、そして孫へを代々受け継いでいくというものです。
実際に釦が開閉できるように釦ホールを切ってしまえば、受け継いだ子孫が自身より大きく成長した際に袖が足りなくなってしまいます。
そこで考えられたのが全て釦ホールを開けるのではなく、例えば4つ釦であれば袖口側の2つだけ釦ホールを開け、肩側の2つは糸でかがるだけにするというものです。
そうすることで袖丈を伸ばしても肩側の釦を移動させればバランスが崩れずに済みます。
ただし、現代でスーツを受け継ぐような着方をしている人はほとんどいないと言っていいでしょう。
そのため伝統だけが現代まで引き継がれているのです。
例えばサヴィル・ロウで仕立てたスーツで本切羽を指定すると、基本的に肩側の1、2個を残しておく従来のスタイルで仕上がるそうです。
本来の個性とはそういった見えないこだわりの積み重ねでにじみ出るものだと私は思います。
目立たせるため、アピールするためではなく、個人的なこだわりとして本切羽を入れてみてはいかがでしょうか。
鈴木(晴)



